Monthly Archives: July 2016

“団体客がいなくなって、また二人きりになると、デヴは橋を渡りきったところに立ってごらんと言った。
十メートル近く離れても、ささやき声が通るのだそうだ。
「嘘でしょう」とミランダは言った。
ここへ来てから初めて声を出した。
何だか耳の中にスピーカーをいくつも埋め込まれたようだった。
「ほら、いいから。」と、彼は反対の方向に引き返していった。ぐっと声を落として、「何か言ってみて」
その言葉が唇の上で動いたと見えたとたんに、くっきりと聞こえていた。
いや、冬のコートをとおして肌にしみるほどすぐ間近に、たっぷりと温もりを感じたので、体が火照るようだった。
「ハーイ」と、ささやいた。とっさに思いつかない。
「きみはセクシーだ」と、ささやきが返った。”

『セクシー』 / ジュンパ・ラヒリ

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“どんなときにも、なにひとつ他人に頼んだりしてはいけません!
どんなときにも、なにひとつ、とりわけ自分よりも強い相手には。
そうすれば、おのずと相手が手を差し伸べ、すべてを与えてくれることになる!
お掛けなさい、誇り高い女よ!”

『巨匠とマルガリータ』 / ミハイル・ブルガーコフ

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“住所も知っているけれど、会いに行けるわけはない。
絶対に行かないと思う。
ただ、東京に住んでいれば、何百万分の一かの確率ででも、
道でばったり会う可能性というものがあるだろ。
その思いだけがあれば一日一日をやり過ごしていける。
それに東京に行くといつもこう思うんだ。
あの人が息を吐くだろ。僕が息を吸うだろ。
それはつまりひとつの空気をやりとりしていることなんだ。
雨がふったらその同じ雨に濡れるということなんだ。
ホテルの窓から夜景を見たりすると、いつも思う。
あの光の海の中の、どれかひとつが、あの人の住んでいる家の、窓の光なんだ、と。
そう思っているだけで生きていける。
大阪にいるとね、それがないんだ。ここには何もない。
ここにいる間は生きていても死んでいるのと同じだ。だから、東京に住むことに決めた”

『世界で一番美しい病気』 / 中島らも

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自分が一番馬鹿だと思えばいいの。
そうすれば人の言葉がよーく頭に入ってくる。
自分が偉いとか上だとか思うとね、人の言葉なんか全然入ってこない。だからダメなんだよ

ー赤塚不二夫ー

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