” ある日、私はアメリカのケープコッドにいたが、その日は雨が降っていた。近代美術館で展示会を開いたばかりのときのことだった。
ひさしの下で雨宿りをしていたら、隣に若者たちが集まっていたので、あわててライカを手にその場を立ち去った。
若者のひとりが、こういっているのが聞こえた。
『おい!あいつ、カルティエ=ブレッソンを気どってやがる』
おもしろかったよ。
時々、私はカルティエ=ブレッソンを知っているかと聞かれるので、こう答えることにしている。
『知っていますよ!まったく性悪な男でね。とにかく、近づかないことですよ。我慢のならない男ですから』
そう、壁土色でいなければならない。自分の存在を忘れてもらう必要がある。
『私は、私は』という態度には反対だ。
ドガが、こんなふうにいっていたと思う。
『人に知られていなければ、有名であることはとてもすばらしい』 ”
Henri Cartier-Bresson フィリップ・ベグネルのインタビュー 1989年2月
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