「よく聞きなさい、友よ、よく聞きなさい! 私もおん身も罪びとである。 現に罪びとである。 だが、この罪びとはいつかはまた梵になるだろう。 いつかは涅槃に達するだろう。 仏陀になるだろう。 さてこの『いつか』というのが迷いであり、たとえにすぎない! 罪びとは仏性への途中にあるのではない。 発展の中にあるのではない。 われわれの考えでは事物をそう考えるよりほか仕方がないとはいえ。 ——いや、罪びとの中に、今、今日すでに未来の仏陀がいるのが。 彼の未来はすべてすでにそこにある。 おん身は罪びとの中に、おん身の中に、一切衆生の中に、成りつつある、可能なる、隠れた仏陀をあがめなければならない。
「シッダールタ」 – ヘルマン・ヘッセ –